統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その3)

Meet the Teachers –ご献体との対面

ご献体との対面は緊張する瞬間です。多くの参加者にとって、亡くなった方のお体を拝見するのは初めての体験となります。解剖台に置かれ、シーツで被われたご献体を囲み、まず感謝の念を表明します。ここに横たわっているご献体は、Viewingと呼ばれる日本では通夜に相当する儀式を受けていません。これから私たちが1週間以上をかけてご献体と向き合うということは、故人をお見送りする儀式もかねているという心構えを確認し、ご献体に対する配慮と敬意を忘れないようにします。

ご献体を被っているシーツを取り除いたときに、いつもその場の空気が変わります。どのように変わるかは、ご自分で参加して経験してみてください。

ご献体は当然ながら衣服をつけていない状態で横たわっています。統合解剖学では、ご献体を「モノ」として見ないという考え方にのっとって、撮影時に匿名性を確保する必要がある場合を除いて、お顔に布をかぶせることはありません。

「亡骸」という言葉が表すように、これは亡くなった方の魂が抜けた後に遺された器です。ヘドレー先生は「亡骸」という意味で「form」という言葉を使われます。人は生きているときには身体と魂は一体となった切り離せない存在ですが、亡くなった後に遺った体は、「人」ではなく「亡骸」「遺骸」なのです。

ヘドレー先生は「靴」のたとえを使われます。靴は履く人の足の形、歩き方、重心の取り方、歩く場所によって形を変えます。新品の時には区別がつかなくでも、履き込んだ靴は、それぞれの持ち主を反映して形状、靴底のすり減り具合、傷の付き方、で唯一無二のものとなります。しかし、靴はその人ではないのです。

This is not Gil Hedley.

Dr. Gil Hedley

目で見て、手で触れて観察

ご献体との最初の対面のあと、目視による観察が行われます。今回の実習では女性のご献体3体、男性のご献体1体でした。4体ともに、かなりなご高齢であることがうかがえました。

外から見て、ご献体の体型は様々です。例えば、下位の肋骨が外向きに広がり、体型をつくりあげている場合や、皮下脂肪層が主として全体の印象を創り上げている場合、皮下脂肪は薄くても腹部の内臓が目立ってせり出している場合などです。

ご献体には手術痕が見られることが多く、後に瘢痕組織(scar tissue)がどのように形成されているかを観察します。よくある手術痕には人工股関節置換(hip replacement)や、人工膝関節置換(knee replacement)、開胸手術の痕、ヘルニア、女性の場合は帝王切開などがあります。

ペースメーカー、化学療法のポータル(薬剤投入口)、人工透析のポータル、ドレナージなどの人工物もしばしば見られます。解剖実習生には医療現場で活躍している方がいることから、様々な観点からの指摘があります。今回、ご献体の1体の胸部にポータルが埋め込まれていることが観察されましたが、チューブが2本あることから、人工透析のポータルである、という知見がシェアされました。化学療法の場合、チューブは1本だということでした。

ご献体では様々な色が観察されます。目視観察の際に留意しなければいけないこととして、生前のものか、死後についたものかかを区別することです。皮下出血の痕がよく見られますが、大部分は亡くなった後の搬送時に発生したもののようです。

この後、実習参加者は自分が引き付けられるご献体を選択し、それぞれのグループに分かれます。ご献体にはそれぞれ認識番号が割り振られていますが、「モノ」化しないために、実習中に使う呼称を考えます。私は、男性のご献体を選択したグループにつき、「フランク」と呼ぶことになりました。

(つづく)

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