統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その10)

ワークショップ後半は骨格の観察を行います。関節包を温存したまま軟組織を除去したご献体4体の全身の骨格を骨格標本のような形で並べて観察しました。

全身骨格を比較すると、あらためてそれぞれのご献体の個性が見て取れます。特に立位状態で見ると、解剖台の上では小柄に見えた女性のご献体が男性のご献体よりも長身だったことに驚かされました。

高齢のご献体には人工関節がよく見られます。オーガニックな骨格の一部が突然光沢のある金属部品になっているのを初めて見た時にはショックでした。骨折した部分が金属の細長い板で繋がれていたりするのを見ると、体の中にこのような金属が入った状態で機能していた人体と、それを可能にした医師の技術に驚異を覚えます。

女性の骨盤と男性の骨盤の形状の違いはよく知られていると思いますが、女性だけ比べても形状ははっきりと異なります。骨格モデルは平均的と思われる1体の型から製作されており、現実ではないことを思い知らされます。

全身の観察後は、4体からの大腿骨を並べた観察が行われました。大腿骨ひとつをとっても、大きな個体差があります。

最終日には、解剖台の上のご献体を囲み、参加者全員で感謝の念を表明し、ご冥福をお祈りしてワークショップは終了しました。

ご献体「フランク」の解剖台チームメートです。

実際の骨とプラスチックモデルの違いについてのHedley先生のYoutubeミニレクチャーをご覧下さい。まだ日本語字幕はついていませんが、2体のご献体の肩甲骨と上肢の骨とプラスチックモデルの比較映像を見ることができます。Youtube動画の埋め込み禁止となっていますので、直接Youtubeにアクセスして下さい。

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その9)

10日間ワークショップは前半の6日間と後半の4日間に分かれています。このワークショップは後半で骨格全体の観察を行うため、関節はすべて温存します。通常は鎖骨を開き、肋骨を両脇で切断し、胸膜や心膜、肺、心臓をin situで観察してから、剖出しますが、今回は肋骨を完全に保ったまま、心肺構造を下方に引き抜くという手法を採りました。

10日間ワークショップは前半の6日間と後半の4日間に分かれています。このワークショップは後半で骨格全体の観察を行うため、関節はすべて温存します。通常は鎖骨を開き、肋骨を両脇で切断し、胸膜や心膜、肺、心臓をin situで観察してから、剖出しますが、今回は肋骨を完全に保ったまま、心肺構造を下方に引き抜くという手法を採りました。

ご献体「フランク」の肋骨は複数箇所で骨折しており、心停止からの蘇生が試みられたことがうかがえました。ご献体ではめずらしいことではありません。肺気腫が見られた上、胸膜が胸郭の内側に癒着していました。

統合解剖学ワークショップでは肺を取り出す前に、気管から空気を送ることにより、呼吸時の肺の働きを観察することがあります。健康な肺はスムーズに膨張し、収縮しますが、病んだ肺は明らかに異常な動きをします。

日本語字幕はついていませんが、ヘドレー先生のYouTubeビデオで肺の動きを見ることができます。埋め込みは禁止されていますので、Youtubeから直接ご覧下さい。ご献体の映像ですので閲覧注意です。

Exquisite Lungs breathing

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その8)

5日目はいよいよ腹腔を開き腹部の内臓を観察します。Hedley先生がひとつの解剖台でデモンストレーションと説明を行います。腹壁を開くと、そこに大腸・小腸が見えると思われる方も多いと思いますが、まず出会うのは脂肪で綴られたレースのエプロンのような大網(greater omentum)です。

初めて大網を見た時には、正直言ってショックでしたが、その構造や役割を理解するに従って、美しいと思うようになりました。

大網の大きさや場所はご献体により様々で、テキストのイラスト通りのことはまずありません。Hedley先生によれば、疾患のある臓器を被うように移動し、炎症を抑えるなどの保護的役割を果たすそうです。そのお話しを聞き、何度も特定の臓器を集中して被うように移動している大網を観察すると、幼児を守るようにかけられた暖かい毛布のように感じるようになりました。これは、「内臓脂肪」ではなく、内臓にとって重要な役割を果たす器官なのです。

内臓ではしばしば変則(anomaly)や病変が観察されます。Hedley先生が今回デモンストレーションを行ったご献体では、結腸、特に横行結腸が極端に長く、骨盤の下の方まで降りていました。内臓の観察をすると思い知らされるのは、abdominal workと呼ばれる腹部臓器をターゲットとして行われる手技施術の際に、教科書通りの場所に内臓があると思ってはならない、ということです。

小腸は、単に腹腔の中に入っている管ではありません。約6mあると言われる小腸は腸間膜により腹膜後面に固定されています。この「茎」の部分を束ねて持つと、小腸は花束のようになります。空になっている小腸は薄く、小腸上から腰椎を感じることができ、腰椎がかなり前面にある構造だということが体感できます。

変則/病変としてよくあるのが、ヘルニアです。解剖中に胃が所定の位置に発見できず、騒ぎになっていました。胃が横隔膜を越えて完全に胸部に入っていることがあります。

胆嚢が手術で除去されている、女性の場合は子宮や卵巣が除去されていることがしばしばあります。また、子宮筋腫等が「筋腫」という名前から想像するものと全く違い、石灰化したミカン大のかたまりが体内に複数あるのを何度も見て、ショックを受けたこともあります。健康な臓器は美しいものですが、病変のある臓器は生理的に「何かおかしい」と感じます。肝臓で最も顕著に観察できます。脂肪肝や肝硬変、肝臓癌の病変を目の当たりにして、健康管理の重要性を思い知りました。

くり返しますが、健康な臓器は生理的に「美しい」と感じます。

Evisceration(内臓摘出)

内臓をin situ(もともとある場所)で観察した後、横隔膜よりも下の消化器系の内臓をひとつの構造として摘出します。

腹部内臓を摘出すると、腹部大動脈や大静脈、腰椎、骨盤内の筋の観察を行うことができます。内臓に関心のある生徒は、個々の内臓の観察や解剖を行います。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の内臓に関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。

内臓の解剖ビデオはYoutubeから日本語字幕つきで視聴できます。閲覧要注意です。

ヘドレー先生のYoutubeビデオは他サイトへのはめ込み禁止となっておりますので、Youtubeから直接ご覧下さい。年齢制限つきの閲覧注意ビデオです。

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その7)

解剖実習4日目には筋肉構造の剖出が行われます。この時点では、参加者それぞれが最も関心のある部位を集中して解剖していることが多いです。私は最初から、右の股関節(自分が痛めている部位です)と骨盤に関心がある、と宣言して、死守しようとしました。

リピーターはそれぞれに自分の関心のある部位に集中し、疲れると別の部位や、解剖が進んでいない部位に移動します。別の部位を解剖する際は、チームメイトに声をかけ、その部位を保全したい人がいないかどうか確認します。初心者は、全部見たい、と思うらしく、あちこちを少し解剖したら、わからなくなって、別の部位にうつる、というようなことをするのが常です。(目をはなしたすきに、観察のために保全していた股関節の腱を切られてました。)

興味深い発見があった場合に、チームメートや他の解剖台の実習生を呼んで説明したり、疑問があったり、剖出方法が分からない場合は、ヘドレー先生やアシスタントのグラムケ先生を呼んで、説明、またはデモンストレーションしてもらいます。

ヘドレー先生は常にどこかのチームから呼ばれ、興味深い場合はクラス全体を集めてデモを行いながら、ミニレクチャーが始まります。

この段階ではしばしばアノマリー(変則)が発見されます。慎重に解剖すれば、変則が必ず観察されます。今回は、一つのご献体で上腕二頭筋溝(bicipital groove)に2本の腱が通っているのが見つかり、そのチームが湧いていました。棘上筋の腱だったみたいです。私が解剖していた「フランク」は片側だけに小腰筋が見られました。

特定の筋肉構造に集中すると、ご献体を「Whole」(統一された存在)として見る視点が薄くなることに気づきました。多くの解剖実習では、この段階からがメインだと思います。ヘドレー先生以外の解剖ビデオを見ていると、かつては一人の人間であった亡骸を解剖させていただいている、ということが感じられないのは、特定の構造にのみスポットライトをあてているからかと思います。解剖が初めての人にとっては、その方がショックが少ないのかもしれません。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の筋のレイヤーに関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。

筋構造の解剖ビデオはYoutubeから日本語字幕つきで視聴できます。閲覧要注意です。

ヘドレー先生のYoutubeビデオは他サイトへのはめ込み禁止となっておりますので、Youtubeから直接ご覧下さい。年齢制限つきの閲覧注意ビデオです。

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その6)

ワークショップ3日目の朝は、superficial fascia (浅層ファシア)を取り除き、人体解剖図でお馴染みの姿となった4体のご献体を並べて観察することから始まりました。

Deep fascia(深層ファシア)は慎重に残してあります。深層ファシアを取り除いてしまうと、筋肉繊維自体は非常に脆いので、筋肉構造の形状が簡単に失われてしまいます。

浅層ファシア又は皮下脂肪層を取り除くと、ご献体の男女差がわかりにくくなります。高齢女性のご献体が予想外にしっかりとした筋肉を保っていることもあります。

浅層ファシアまたは皮下脂肪層を深層ファシアから剖出する際に、2つの間の関係性を重視するように指導されました。この二つの層が密接な関係の部分と、blunt dissectionと呼ばれる、メスを使わず、指等で剖出できる部分に特に注意を払います。Blunt dissectionが可能な部位は、構造と構造の間に差異運動(differential movement)がある場所であり、メスを使う必要がある部分はアンカーとなっている部分です。このコンセプトは手技施術者にとって目からウロコとなります。この点は3日でも同じです。

3日目には深層ファシアを剖出し、筋構造の骨への付着部(統合解剖学では筋構造全体の関係性を重視するため、起始停止という用語を使いません)を切り離さず、blunt dissectionによって筋肉構造を分離し、特定していきます。

付着部をそのままにする、というのは初心者の頃に思い知った重要な点です。骨から安易に切り離してしまうと、何の筋か、どこからきたのか分からなくなることです。大腿部や前腕部を想像してみてください。遠位の付着部を切り離してしまった場合、近位の付着部についてしっかりと理解していなければ、区別が付かなくなってしまいます。(私は最初そうなりました。)

この過程で、深層ファシアについて深い学びがえられます。深層ファシアは単に名前をつけられた筋構造をラッピングしているだけものではないということを、自分の手の感覚を通して理解することができます。

もうひとつ、重要なのはヘドレー先生がペリファシアと呼んでいる組織です。これは深層ファシアと皮下脂肪層の間、深層ファシアと深層ファシアの間にある組織です。これについては、ヘドレー先生のYoutubeレクチャーがあります。いずれ日本語字幕をつけようと思います。

個人的な学び方のスタイルですが、わたしのように座学で学んだものを3次元の知識に変換する回路を持っていないものにとっては、解剖実習にまさるものはありません。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の深層ファシアに関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。