2018年ファシア学会会議(ベルリン)でのプレゼンテーション

2018年にベルリンで開催された第5回国際ファシア学会会議(Fifth International Fascia Research Congress)で発表されたプレゼンテーションビデオです。ギル・ヘドレー博士が、「ファズ」(Fuzz)と呼んでいたファシアとは何かについて説き明かします。まず、皮下脂肪層、そして疎性結合組織を示し、いずれも、2015年ファシア学会会議で提案された定義に適合するファシアとして実証することができることを示します。一般に疎性結合組織と考えられている組織の名前として、表層ファシア(Superficial fascia)とペリファシア(perifascia)を提案します。

Fascia is all around us! (for 2018 Fascia Congress, Berlin): Learn Integral Anatomy with Gil Hedley

ビデオの埋め込みが禁止されていますので、リンクから直接Youtubeにアクセスし、CCで日本語を選んで閲覧ください。

Fasciaという英語は日本語では筋膜と訳されているようですが、Hedley先生の統合解剖学の観点からここでは「ファシア」とカタカナ表記することにします。

このプレゼンテーションビデオでは、真皮の下にあるsuperficial fascia(浅層ファシア)と、Hedley先生が提唱するperifascia(ペリファシア)の性質が明示されています。

Hedley先生はまだファシアが注目されていなかった2005年に、ご献体で観察されたある構造を「Fuzz」と表現したスピーチのビデオを作成し、その後、Youtubeに投稿し、以来「Fuzz speech guy」として当時は数少なかったファシアを意識する研究者やマニュアルセラピストの間で有名になってました。以来、”fuzz”の正体の研究を重ねた結果、現在ではペリファシアと呼び、その特性からこれがファシアの定義に適合するものであるとされています。

Hedley先生はFuzzスピーチの情報をアップデートし、次のように説明しています。

「毛羽立ち(Fuzz)」は、実際には生体内の非常に湿った膜であり、私は現在「ペリファシア」と呼び、解剖学者は一般に疎性結合組織(loose areolar connective tissue)と呼んでいるものです。 私がこれをファシアと呼んで妥当であると考えるのは、それが結合組織の集合体であり、覆い、包み込み、シート状に剖出することができるためです。シート状に切り出すのは容易であり、私も他の多くのビデオでも行っています。 解剖時に引き裂くと「毛羽立った」ように見えるのは、それを構成するコラーゲン線維の組織が直線的ではなく「フェルト状」に組織されているためで、非生理的張力がかかると綿菓子ように毛羽だちます。 これらの組織は、筋骨格系の中で特に差異運動(differential movement)が発生する場所に存在します。 これらは滑りやすく湿っており、膨張性と弾力性があるため、これらの膜を介して関係する他の組織(筋束など)が作用し、相互に簡単に移動できます。 感覚神経終末もこれらの組織で終結しており、これらの滑りやすい経路を通って他の目的地に向かう多くの神経も存在します。 したがって、ペリファシア膜組織が静止状態、脱水状態、虚血状態、および/または炎症を起こしている場合、実際にそこが痛みの原因となる可能性があります。 私は、「What’s the Fuzz?! The role of Fascia in Healthy Movement」という一連のビデオで、研究室の画像や映像を使ってこれらの組織について詳しく議論し、説明しています。このビデオは私のウェブサイトで(https://www.gilhedley.com/products/what-s-the-fuzz-5-hr-ce-credit-course)見つけることができ、視聴できます。 イージーライダー会員(無料)に登録し、楽しんでください!

Gil Hedley, Ph.D.

浅層ファシア:Superficial fascia

Fascia is all round us!のビデオはまず、浅層ファシア(superficial fascia)の性質のデモンストレーションから始まります。浅層ファシアは密性結合組織である真皮(dermis)と筋肉の間にある層であり、皮下脂肪層のことです。人体解剖図やビデオでは皮下脂肪層に焦点が当てられることは希であり、その存在はしばしば悪者や排除すべきものとして扱われており、これまで皮下脂肪層が果たす重要な役割や機能について言及されることはまれでした。

美容整形で脂肪吸引という施術を聞いたことがあると思います。この言葉からは、単に皮膚の下の脂肪の塊を吸い取る、というイメージが想起されます。現実はどうなのでしょうか。

このビデオでは、ご献体から皮下脂肪/浅層ファシア片を剖出し、脂肪分を除去することにより、脂肪細胞を支えているマトリックス(骨組み/基盤)のみを取り出し、荷重をかけてその引っ張り強度をデモンストレーションしています。

医大のご献体処理室におけるワークショップで、実験用の特別な装備がなかったため、かなり原始的な方法でデモンストレーションされていることをご了解下さい。

この試みが行われた時に私は解剖助手として立ち合っていましたが、マニュアルセラピストとして皮下脂肪を見る観点が大きく変わりました。

ペリファシア:Perifascia

Peri=周辺、周囲 Perifasia=ファシアの周辺の組織

(3:31)Hedley先生がペリファシアと命名した組織についてのデモンストレーションが行われます。これは、初期のビデオで先生がFuzzと呼んでいた、筋組織と表層ファシアの間に存在する構造です。この構造は非常に薄く、透明であるため、容易に見逃されてしまいます。ペリファシアは表層ファシアの下だけでなく、筋組織の間にも存在します。

ペリファシアは時間をかければファブリック(膜)として剖出することができますが、組織が乾燥している場合は、引っ張ると裂けて毛羽だって見えます(Fuzz)。光が波動であり同時に粒子であるという概念と似ていますね。

先に表層ファシアの強靱性をデモンストレーションしましたが、このデリケートなペリファシアも特性的な耐久性を持っています。ペリファシアは水分を多く含んでおり、組織間の滑りをよくする働きをしています。

それでは、ペリファシアの層はいくつあるのでしょうか。実際のところ、人体は層にわかれているわけではなく、層(レイヤー)は使用する器具と技術により決まります。深層ファシアとペリファシアは連続しており、これをテクスチャーの違いに基づいて分離することにより、層として見ることができるのです。

Fixed Cadaverについて

2024年5月の解剖実習ワークショップに申し込みました。2023年は防腐処理を施されていないご献体の10日間にわたる解剖実習ワークショップに参加しましたが、2024年は防腐処理を施されたご献体の6日間ワークショップを選択しました。参加を考えている方のために、防腐処理を施したご献体(fixed cadaver)についてお話しします。

Cadaver

日本語で死者の遺骸を表す言葉はいくつもありますが、ご献体は英語ではcadaverと呼ばれます。そのままの訳すと「死体」ですが、Hedley先生の解剖実習では、私達の学びのために献体して下さったdonor(献体者)と呼びますので、敬意と感謝の念を示すために「ご献体」と日本語に訳しています。

Fixedって何?

Fixedというのは、薬品による防腐処理を施されたご献体です。長期にわたる解剖実習を行う医学生が扱うのはhard fixedと呼ばれる強い防腐処理を施したご献体になります。Hedley先生の1週間のワークショップの場合は、soft fixedと呼ばれる比較的緩い薬品処理となります。

これに対して、Unfixedのご献体は低温保存したものであり、当然のことながら長期間の解剖には適さず、解剖実習中の温度管理に細心の注意を必要とします。

遺体の防腐処理はembalming(エンバーミング)と呼ばれ、アメリカでは葬儀屋で一般的に行われるものです。映画やドラマでエンバーミングを行っているシーンを目にしたことがあるかもしれません。原理としては、血液を除去し、防腐のための薬品を注入するものです。頸動脈や頸静脈、大腿動脈・静脈を引き出し、切れ目を入れてそこから薬剤を注入します。薬品の成分の比率等は、遺体整復師(エンバーマー)によって異なります。処置を行ったエンバーマーによって、ご献体の状態はかわります。

Fixed Cadaverの大きな特徴は、鎖骨の上の頸動脈が通る部分と、太ももの内側の大腿動脈が通る部分の切開したところを糸で縫い合わせていることです。初めてFixed Cadaverを見た人は、これを見て「?」という顔をすることがあります。このような、死後についたものは、artifact(死の所産)と呼ばれます。生きている間のその人とは全く関係ないものということです。

ほとんどのご献体で青あざのような鬱血色が観察されますが、死後のアーティファクトであることがほとんどです。

もうひとつ、注意しなければならないのは、防腐処理の薬品を体中に浸潤させるため、かなりな水分を含んでいることです。人工的にむくんだ状態になっています。

匂いは?

薬品の匂いがしますが、慣れたこともあってそれほど気にならなくなりました。初めての実習時にはマスクにエッセンシャルオイルを垂らしたりしていましたが、そのうち大部分の実習生はマスクをはずしてしまいます。呼吸器系の疾患のある方は、ハードコアなマスクをすることもあります。

UnfixedとFixed、どっちがいいの?

私はfixedとunfixedのいずれも何度も扱いました。ここしばらく、Hedley先生の長期プロジェクトのアシスタントをしている時以外は、unfixedの解剖実習を行っていました。

最近「unfixedでなければ解剖ではない」というような主張をしているワークショップが多くなっているとHedley先生は嘆かれています。どちらがいい、ということはありません。目的が何かによってどちらが適切かを選ぶということです。

Fixedは組織が「固定」されているので、一つ一つの構造を防出するのが容易です。特に、神経のようなデリケートな構造を剖出しようとすると、unfixedでは困難となります。脳の構造を観察したい場合も、unfixedでは柔らかすぎてはっきりと見ることはできません。

一方、fixedでは、関節が固定されており、「動き」を見るのには適しません。私は、unfixedの解剖時には、動きを重視して観察するようにしています。

どちらを選んでも、異なる気づきと学びを得ることができます。

2024年のワークショップの日程は以下のリンクから。

https://www.gilhedley.com/lab-course-details-and-schedule