Gil Hedley先生の神経解剖プレゼンテーション受講報告

2024年9月7日にマンハッタンで実施されたGil Hedley先生の神経解剖プレゼンテーションに参加しました。2023年に5ヶ月間にわたって実施されたご献体「Captain」の神経系統解剖プロジェクトをメインにした5時間にわたるプレゼンテーションでした。

クレニオセイクラルセラピー(頭蓋仙骨療法)の教育機関であるアプレジャー・インスティチュート、神経マニピュレーションのバラル・インスティチュート、ロルフィングのアイダ・ロルフ・インスティチュート、筋膜クレンジングテクニックのメルトメソッドの創始者スー・ヒッツマン先生を初めとするファシア関連の教育機関の支援を受けたGil Hedley先生の講義には、ほぼ口コミで数百人の聴講生が集まっていました。私が実習に参加したときのチームメートやアシスタントをしている時に知り合った解剖実習ワークショップの常連の参加者は、それぞれにファシア研究関連のワークショップを主催し、広い人脈を持っています。

Hedley先生がコロナ時に研究室に閉じこもり17ヶ月にわたって実施した「AからZまでの解剖学」プロジェクトと2023年の神経解剖プロジェクトでいっしょにアシスタントを務めたFauna Moore先生はファシア研究学会によりドイツのグーベンで行われたファシア・ネット・プラスティネーション・プロジェクトの立ち上げ時のメンバーの一人でもあり、ノースカロライナ州で解剖研究所で教育プログラムを担当されており、ファシア研究で著名なイタリアのカーラ・スタッコ博士のワークショップにも度々参加されています。Hedley先生の実習時に何度もお会いしたLauri Nemetz先生もファシア・ネット・プラスティネーション・プロジェクトに関与され、The Myofascial System in Form and Movement を出版されており、2014年から2021年までトム・マイヤーズのアナトミー・トレインズ解剖ラボでアシスタントを務められていました。彼女は日本からの学生グループを何度も教えた経験があるので、ご存じの方もいらっしゃると思います。現在はヨガ・アナトミーのLeslie Kaminoff先生と呼吸に重点を置いたヨガインストラクター向けの解剖実習ワークショップを主宰しておられます。他にもGil Hedley先生のIntegral Anatomy(統合解剖学)ファミリーのメンバーの見覚えのある顔が何人も見られました。

レクチャーの前半はご献体AnnaとZ、そしてJerryとGeorgeの解剖映像を使って、脳の構造の説明が行われました。先生はご献体を固有名詞(本名ではありません)やニックネームで呼ぶことにより、私たちが見ているものが、抽象的な人体構造ではなく、教育のためにご献体して下さった個人であることを強調され、その時に得られた学びに対して感謝の念を表明されます。個人的な気持ちですが、私がHedley先生の解剖実習だけに惹かれる理由はここにあると思います。

頭蓋骨の内側にある脳髄膜(硬膜、くも膜、軟膜)と脳脊髄液の関係と構造を示し、12の脳神経をひとつひとつポイントアウトして位置関係を説明されました。ご献体2体の脳を比較することにより、視覚的に、位置関係の理解がより深まりました。

ご献体Georgeの脳の画像を使い、脳の構造の説明がありました。構造の説明だけではなく、機能の説明や、右脳/左脳の認知パターンの違いついてのお話しや、下垂体や松果体の位置を自分の脳で見つけるエクセサイズなど、Hedley先生ならではの内容となりました。

実は私は解剖実習に参加したときに担当のご献体がGeorgeだったのですが、脳の解剖については全く記憶から消えていました。当時は、まだ脳や神経に関心がなく、筋肉にのみ集中していたのだと思います。自分に受け入れる準備が整っていないと、目の前にある知識を吸収することさえできない、ということを思い知りました。脳や神経に意識が行くまでに、10年かかったことになります。

10分間の休憩(実際はもっと長かったですが)をはさんだレクチャー後半では、5ヶ月間をかけたご献体「Captain」の神経解剖プロジェクトの全容が明らかになります。私は1週間だけのアシスタントでしたが、その一週間にHedley先生とアシスタントをしていたFauna Moore先生の解剖をひたすら観察し続け、–筋肉や骨格に焦点を当てたいつもの解剖とは全く異なる特殊でデリケートな解剖なので、すぐには始めさせてもらえませんでした–数日間ひたすらに縫工筋に至る細い神経の末端を少しずつ剖出する気の遠くなるようなプロセスを経験しただけだったのですが、一度そこにあることが分かれば、二度と無視できない、という先生の言葉通り、次に解剖実習に参加したときに、大腰筋の中を通る神経を、それが何という名前の神経かもしらないままに、きれいに剖出できました。なぜ今まで見えなかったのだろうと思います。

Hedley先生はまず皮神経を剖出して見せ、これが真皮、皮下組織、脂肪組織を通してどのように走行しているか、神経とリンパ管、静脈、動脈の関係、さらにファシアと神経の関係性、特に知覚神経の分布と病状の関係性についてのお話しがありました。

自律神経の剖出プロジェクトのプレゼンテーションはメインイベントです。特に迷走神経と腸神経はトラウマセラピストやホリスティックなセラピスト業界で今時ホットなトピックです。解剖学界隈では時代の寵児といえるような構造が時にふれ浮上します。10年以上前には解剖実習で大腰筋を見たがる参加者が多かったのですが、最近は迷走神経を見たいという声がしばしば聞かれました。

プロジェクト助手をした際には、Hedley先生は迷走神経(Vagus Nerve)を脳幹から心臓までたどる過程を迷走神経を剖出しながら撮影されていました。その時にはあまりに複雑で私の理解を超えていたのですが、あらためて順序だった説明を聞いて、理解が深まりました。Captainの迷走神経は何度も別の神経と吻合し、時に逆走しながら、神経叢を形成し、心臓に達していました。さらに、肝神経叢、上腸間膜神経叢を初めとする自律神経叢や神経節を深骨盤までたどり、交感神経と副交感神経の役割についての考察がありました。

レクチャーの最後は筋骨格神経叢ーー頸神経叢、腕神経叢、腰神経叢、仙骨神経叢–の剖出、同定、そして筋との位置関係についての詳細が明らかにされました。

ヘドレー先生はこれらの解剖学的な知見を、人体のパーツとしてではなく、人とは何か、人はこの世界とどのようにかかわっていけるか、という哲学的な視点を加えて提示していると感じました。

Hedley先生のレクチャーを視聴すると、ボディーワーカーにとって「人体」とのかかわり方が大きく変わることは確実です。機会があれば、ぜひ参加下さい。

Hedley先生を日本にお呼びして、このプレゼンテーションやファシアのプレゼンテーションをしていただくのが私の夢です。そのために日本語で発信する努力を今後も続けたいとおもいます。拡散、よろしくお願いいたします。

https://www.gilhedley.com/thenervetour