日本では人体解剖を実際に行うためには特定の資格(医師等)が必要とされることから、一般にボディーワーカーと呼ばれる施術者や身体の機能を高めるための理学療法士、ヨガ、ピラティス、筋トレ等のインストラクターが実際に人体解剖を行う機会はほとんどないと思われます。
アメリカでは、人体解剖ワークショップに参加するために特別な資格は必要とされません。そのため、日本から人体解剖ワークショップツアーに参加する方もいるようです。
アメリカには大学に付属しない大小多数の解剖実習センターが存在し、様々な人体解剖ワークショップを提供しています。しかし、日本からの参加には高額な費用がかかるうえ、かなりな英語力が要求され、または専門の通訳が必要となるため、誰もが簡単に参加できるものではありません。
私はおよそ10年にわたり米国のファシア研究の第一人者であるギル・ヘドレー博士に師事し、これまで1,300時間以上の人体解剖を行ってきました。その経験を通して、解剖学のテキストブックに描かれている2次元の人体解剖図からの人体構造の理解と、実際にご献体一体一体と向き合い、自らの手で解剖させていただくことによる理解は全く別の次元であることを学びました。
人間の体は一人一人驚くほど違います。テキストブックに描かれているのは、学び易くするための平均的な構造なのです。ご献体と向き合うたびに、アノマリーと呼ばれる変則を発見します。ギル・ヘドレー博士は常に「テキストブックの解剖図通りの人はいない」といわれます。「テキストブックは解剖台の上にある」のです。
人体を学ぶのは山(トレイル)歩きのようなものです。初めての山を歩く時には、地図(トレイルマップ)が必要です。しかし、山は常に変化しています。地図=山ではないのです。さらに、地図に頼っていてるだけでは、周囲の自然や動植物,季節や天候によって変化する地形などを見落としてしまいます。
ギル・ヘドレー博士は30年近くにわたる解剖で博士が見てきた人体の驚異を解剖実習に参加できない世界中の方にも分かち合うために、2体のご献体の詳細な解剖の過程を1年以上にわたって撮影し、オンラインコースとして提供しています。
私がプロジェクトをご一緒しているもうひとりの解剖教育者であるジョゼフ・マスコリーノ博士は手技施術者(マニュアル・セラピスト)と運動専門家のためのオンラインコースを提供しています。マスコリーノ博士のコースは筋肉ごとに2次元のイラスト、人体解剖、モデルを使った筋肉作用の説明、触察の方法、ストレッチの方法を詳細に説明し、より実践的で網羅的な学びを提供しています。
マスコリーノ博士は全世界の人々に学びの機会を持ってもらうために、コースの全ビデオに各国語で字幕をつけるプロジェクトに取り組んでおり、私は日本語字幕を担当しています。
J . Ujiie M.A. LMT. Anatomist

津田塾大学大学院博士課程満期退学。博士論文の研究のためジョージア大学大学院に留学後、永住権を取得。ジェトロ(JETRO)ニューヨークで約20年勤務。在米30年を超える。自身のリハビリ経験から人体構造に関心を持ち、キャリアチェンジ。Swedish Institute College of Health Sciencesで準学士号を取得。ファシア研究第一人者のGil Hedley博士に師事し、解剖実習助手として約10年にわたり様々な実習、プロジェクトに参加。現在、解剖学を含む翻訳、コンサルティングを手がける。
