大腰筋の上にある構造

Gil Hedley博士のYoutubeレクチャーシリーズ(閲覧無料)

Structures Overlying the Psoas Major m.: Learn Integral Anatomy with Gil Hedley

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マニュアルセラピストにとって大事なレッスンです。腰痛の原因としてよく指摘される大腰筋ですが、大腰筋がまな板の上にのっていて、さあ揉んでくれ!と言っているかのように、いきなりクライアントの腹部に手を押し入れ施術を始めるセラピストが少なくありません。腹部はデリケートなので、これを不快にに感じるクライアントもいるかと思います。

Psoas Major Muscle
大腰筋 (Creative Commons/Author: Anatomography)

ちょっと待って下さい。あなたの手と大腰筋の間にある複雑な構造を認識していますか?

さて、大腰筋はどこにあるのでしょう。大腰筋はインナーマッスルです。股関節を屈曲(曲げる)筋肉なので、遠位で大腿骨の小転子に付いており、そこから骨盤の縁を越えて、上に向かいます。骨盤を超えるあたりでは比較的細い筋肉ですが、筋腹は広くなります。腰椎の横突起にむかって走り、横突起と腰椎椎体の側面につきます。横突起と椎体、横突起と椎体、という風に順番について、結果として長い筋肉の束となります。近位(上の方)から見れば、下走して、腸骨筋の上を通って、最終的に腸骨筋と合体し、小転子で停止します。

「だからどうした?」と思われるかもしれませんが、話しはこれからです。まず、肝臓があります。尿管が肝臓から伸びて大腰筋の筋腹の上を通って、骨盤深部にある膀胱に向かいます。つまり、尿管は大腰筋の上を横切っているのです。

出所:Anatomist90, CC BY-SA 3.0 via Wikimedia Commons

他に何があるでしょう?重要な血管が大腰筋の上を通っています。大動脈と大静脈です。大動脈と大静脈は隣合わせになっています。大動脈と大動脈から、卵巣静脈(女性)、精巣静脈(男性)、卵巣動脈(女性)、精巣動脈(男性)が出ています。これらは静脈と動脈から分岐し、大腰筋の上を通って尿管と交差し、卵巣や精巣に向かいます。

動脈と静脈の走行は左右で少し異なりますが、基本的には左右両側で同じことがおこっています。

Colon Illustration

図出所:https://www.cdc.gov/cancer/colorectal/basic_info/what-is-colorectal-cancer.htm

これだけではありません。S字結腸が大腰筋の上でSカーブを描きます。位置によりますが盲腸が大腰筋の上にのっていることもあります。

女性の場合、卵巣が大腰筋の真上にのっている可能性もあります。

今度、クライアントの大腰筋をマッサージするとには、あなたの手が探っている下に何があるかをよく思い浮かべて、そこにある構造を尊重しながら施術にあたって下さい。

心臓と肺の親密な関係

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Lung-Heart-Lung Friendship: Learn Integral Anatomy with Gil Hedley

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インテグラル・アナトミーの解剖実習では、しばしば心臓と肺はそのつながりを維持したまま、いっしょに剖出されます。Gil Hedley先生は内臓についてのプチ・レクチャービデオで心臓と肺を1セットとして説明しています。

ふつう心臓と肺はテキストでは別の章で扱われていますし、病院だったら心臓と肺は別の棟で扱われます。しかし、組織間の関係性を中心に据えるインテグラル・アナトミーでは心臓と肺は美しくドラマチックな1セットの臓器としてとらえています。

心臓は私たちの胸の中にある美しい天使であり、肺はその翼です。肺は膨らみ、心臓という天使はその翼を広げます。血液は絶え間なく全身を巡り、心臓から肺へ、肺から心臓へと巡っています。

心臓と肺、それは体の中心にあり、そこで血液の流れは勢いを取り戻し、栄養分と酸素で満たされた血液は命の息吹で満たされるのです。

肺というと私たちは空気の話しだと考えがちです。息を吸うと体に大気が流れ込みますね。しかし酸素と二酸化炭素は血液を介して受け渡されるのです。

微細な毛細血管が肺胞を取り囲み、その境界面で酸素と二酸化炭素が受け渡されるのです。肺について語る場合、空気だけでなく血液についても語る必要があることを理解していただきたいのです。

肺は心臓の翼です。無数の静脈と毛細血管が肺に浸潤し、肺胞を包み込み、酸素と二酸化炭素の交換を可能にしているのです。

肺はまた心臓をマッサージしています。息を吸うたびに肺が膨らみ、心臓は肺にやさしく押され、心地よいプチマッサージを一日中受けているのです。

心臓そのものも、常にとてもダイナミックなリズムで鼓動しています。常に同じ単調なリズムのダンスを繰り返しているのではありません。心臓はわたしたちの胸の中でリズミカルに踊っているのです。

そして心臓の渦動性の収縮により、血液は高速で回転し、力強い渦流となって栄養素と酸素を運び、生命の息吹を私たちの胸から全身に運ぶのです。

病院の診察室の壁に貼られているのを見かけるイラストでは心臓は「ポンプ」として描かれていますが、実際のところ心臓はポンプのように働くわけではありません。渦を巻きながら押し出される血液は全身を駆け巡った後、圧力差により末梢血管からゆっくりと、ゆるやかに流れる川のように心臓に戻り、再び回転し、勢いを取り戻して再び全身に滋養を運ぶミッションに旅立つのです。血液は命の恵みを運びます。

さて、心臓と肺は胸の中にあります。胸部というと、肺は胸郭の肋骨縁に沿っていると考えがちですが、実は体の前面では腹部の臓器がかなり上まできているので、肺は肋骨の下縁まできているわけではありません。外側面は肋骨に面して胸郭を満たしています。

肺の上端の肺尖はずっと上の方にあり、鎖骨よりも少し上方に達しますので、手を首の下の方に当てて息を吸うと、肺が膨らんで鎖骨よりも上まで満たすのを感じることができます。

次に右手を胸骨の真上において、そこから少し左にずらすと、心臓はまさにあなたの掌の下にあります。ほぼこぶし大といわれますが、世の中に大きい人と小さい人がいるように、こぶしより大きいこともあれば小さいこともあります。

自分の心臓の位置を知り、こぶしをつくって胸に当て、これが心臓だと想像することと、実際に心臓のある場所に意識を向けて、心臓の動きを感じることは別物です。

静かに、じっとして、背筋を真っ直ぐにして坐骨上でバランスを取って座っていると、鼓動が全身に伝わり、内側からあなたを揺り動かすのを感じることができます。リラックスして、バランスを保てば、心臓の鼓動は力強い波を生み、そのリズムが全身に広がるでしょう。

心動があなたを動かし、心臓に動かされるのを体感すること、それは美しいメディテーションです。

心臓と肺は私たちの胸の中で手に手を取り合って生きています。しかし、ほとんどの人が気づかないのは下半身からの血液をすべて心臓に注ぎ込む下大動脈が肝臓の裏を通っていることです。心臓と肝臓の間を隔てているのは横隔膜だけです。肝臓は肺が拡張すると下に押されます。心臓の鼓動は肝臓にも伝わっています。

心臓と肺はそれだけで孤独に存在しているのではなく、他の内臓も心臓の動きを感じています。横隔膜のすぐ下には肝臓と胃があります。肝臓は中味がつまっています。胃は中空です。異なるタイプのドラムのようなものだと考えると、心臓はこれらのドラムを打ち、周囲の内臓とコミュニケーションを取っていると言えます。心臓はソロではなく、バンド演奏をしているのです。そして心臓の奏でる音楽に他の内臓が耳を傾けるのです。

これらの内臓はお互いに非常に近い位置にあるので、いちいち脳に問い合わせて、「今心臓は何をしているの」と訊く必要はありません。常に心臓の鼓動を直に感じているからです。

あなたの胸の中に住む心臓と肺の天使の歌に耳を傾けて下さい。全身に命を吹き込んでくれます。