Gil Hedley博士のYoutubeレクチャーシリーズ(閲覧無料)日本語字幕付き

Foam Rolling: The IT Band Speech: Learn Integral Anatomy with Gil Hedley
Youtubeに直接アクセスし、CCから日本語字幕を選択して下さい。(閲覧注意)
このビデオレクチャーでは実際のご献体の解剖映像が使われていますので、苦手な方は避けて下さい。
このビデオレクチャーでヘドレー先生はAnatomy A to Z(2o20-2021)の解剖プロジェクトのビデオ映像をシェアし、腸脛靱帯(ITB)が人体の構造上果たす役割についてお話しして下さいます。
大腿筋膜(深筋膜)、腸脛靱帯、ペリファシア、大腿の筋の関係をご献体で説明した後、腸脛靱帯が持つ感知器官としての役割と、「筋膜リリース」の一種とされているフォームローリングが及ぼす影響に焦点を当てたレクチャーとなっています。
ボディワークの世界では、常に特定の筋や構造が「諸悪の根源」として注目を浴びます。大腰筋、腰方形筋、梨状筋が取り上げられてきました。一時期、誰もが大腰筋について語っていたことがありますね。腸脛靱帯もそのひとつです。
スポーツジムに行くと、必ずと言っていいほどフォームローラーを使って腸脛靱帯(ITB)をコロコロとローリングしている人が見られます。腸脛靱帯が硬いから、ほぐしているらしいのですが、実際に体の中で何が起こっているのでしょう?ローリングには腸脛靱帯を「リリース」する効果があるのでしょうか。
そもそも、腸脛靱帯(Iliotibial Band/Iliotibial Tract)とはどのような組織なのでしょうか?皆さんがお馴染みの人体解剖図では、大腿の外側を上下に走る白いストラップのような組織として描かれていますね。ズボンのサイドラインストライプのような組織です。
大腿は大腿筋膜(fascia lata)と呼ばれる深筋膜でラッピングされています。大腿筋膜は腸骨稜まで続いており、中臀筋や大腿筋膜張筋(TFL:Tensor Fascia Lata)も被っています。この連続した大腿筋膜の一部が肥厚化した部分が腸脛靱帯と呼ばれていますが、独立した構造ではありません。
同時に、腸脛靱帯は構造上独特の特性を持っています。ビデオでは緻密(dense)で規則正しく(regular)線維性(fibrous)の組織であり、複数の方向に90度の角度で格子状の線維が走り、これが複数の層となっていることがわかります(詳細はDoes Fascia Stretch?のビデオを参照下さい)。それぞれの層はお互いに付着しています。
腸脛靱帯は非常に強靱な組織であり、人体の構造上の重要な要素です。ヘドレー先生はこれをエクソスケルトン(外骨格)と呼んでおり、もしこれが緩まってしまうと、立っていられなくなると指摘しています。腸脛靱帯は構造上ぴんと張っていなければ成らないのです。
腸脛靱帯のもうひとつの特性は、感覚器官としての役割です。無数の感覚自由神経終末(sensory free nerve endings)が腸脛靱帯に存在することにお気づきでしょうか。ファシアに自由神経終末があることにより固有受容感覚(proprioception)が働いています。私たちはファシアに痛みを感じるのです。
ファシアにかかる張力のバランスがずれていることを脳が痛みとして認知するのかもしれません。
さて、フォームローリングですが、私の友人は「腸脛靱帯がタイトだ」と言って、青あざができるまでローリングしていましたが、何の効果もなく、常に膝の痛みを訴えていました。何が起こっているのでしょう。
筋肉を大きくするためのボディービルディングのトレーニングでは筋肉を微細に傷つけることにより、修復される際にさらに大きくなることを目的としているため、「痛み無くして得るものなし」というメンタリティが通用するかもしれませんが、筋膜をリリースしようとして痛みが出るのは本末転倒ではないでしょうか。
ヘドレー先生は、痛みが出るまでローリングすることにより炎症が生じ、組織が癒着してさらにタイトになり、痛みが生じ、それをほぐそうとしてさらにローリングすることにより、炎症が起こり…という負の連鎖に入る危険性を指摘されています。
それでは、フォームローリングは何の効果もないのでしょうか?
もう一度、ご献体を見てみましょう。深筋膜(ディープファシア)/腸脛靱帯の下側には水分を含んだ薄膜組織(ペリファシア)があり、これが筋肉と深筋膜の間の差異運動(differential movement)を円滑化しています。解剖画像では腸脛靱帯はペリファシアから剥離されていますが、生きている人体では、腸脛靱帯とペリファシアの間に空間はありません。
差異運動はシアリング(Shearing)ムーブメントと表現されることもあります。力まかせのローリングではなく優しくシアリングすることにより、動きが鈍くなっているペリファシア層に水分が補給され、痛みが軽減し、動きが円滑化すると考えられます。

このコンセプトに基づいたフォームローラーによる筋膜リリースのメソッドのひとつとして、スー・ヒッツマン氏のメルト・メソッドがあります。(私もこのローラーを使ってます。)
また、片側の筋が硬いのは、反対側の筋が弱いからかもしれません。つまり、タイトな側を緩めるのではなく、弱い側を強化する必要があるのかもしれません。
複雑な構造を理解したうえで、どの層、どの構造に働きかけているのかを意識することが大事なのではないでしょうか。
この解剖ビデオの撮影時に、私は解剖助手として立ち合っていました。実際に解剖実習を行うことによる気づきは、座学とは比べものにならない深さがあります。ヘドレー先生のAnatomy A to Zプロジェクトの映像はすべてGilhedley.comでメンバーになることによりアクセスすることができます。日本語字幕はまだついてませんが、非常に価値のある教材となると思います。


