Hedley先生の北米111都市神経系解剖研究プレゼンテーションツアー

現在Gil Hedley先生はアメリカとカナダの111都市を回りながら、2023年に実施した神経系解剖のプレゼンテーションを行っています。このプレゼンテーションは医師はもちろん、手技施術を行うすべてのプロフェッショナル、ヨガ、ピラティス等のインストラクターを対象としており、免許更新のための条件となるContinuing Educationの単位も取得できます。さらに、「身体を所有しているすべての人」にお勧めです。

わたしは2023年の3月末に1週間神経解剖プロジェクトのお手伝いに参加しましたが、目からウロコが落ちる体験でした。ちょうど迷走神経を心臓から肺までたどっている段階でした。

円安の時代なので、渡米してまで参加されるのは難しいかもしれませんが、いつか機会があれば、ヘドレー先生を日本に招待して、日本でプレゼンテーションをする機会をセッティングしていただける方がいらっしゃることを切に望んでおります。

神経系の実際の解剖フッテージというのはなかなか見つかりません。また複雑な神経叢については、ダイアグラム化した図はお馴染みですが、実際の人体のイメージはそれほど多くありません。

Hedley先生のプレゼンテーションでは解剖の過程で次の神経がカメラで撮影されています。

  • 髄膜、脳神経
  • 皮神経
  • 自律神経の複雑な分岐
  • 神経叢とその神経節
  • 迷走神経の経路全体
  • 尾骨までの交換神経幹
  • 頸神経叢
  • 上腕神経叢
  • 腰神経叢
  • 仙骨神経叢

見てみたいと思いませんか?

ツアーについてはhttps://www.gilhedley.com

私の初めての統合解剖学ワークショップ(その1)

2014年に初めてGil Hedley先生の統合解剖学ワークショップに参加した時のメモが出てきたので、ご参考までにシェアしたいと思います。何も知らず、見るものすべてにドキドキした初々しいころの感想です。少々ポエティックですが、10年以上にわたる旅の出発点としてお許し下さい。医師や科学者でなくてもヘドレー先生の解剖実習から学ぶことは無限にあることを知っていただきたいと思います。ここ10年間に先生のワークショップも、私の見方も進化しましたが、根本的な部分は同じです。このワークショップは3週間にわたる特別実習でした。

2014年ワークショップ第1日

今日、私はある場所で(献体者の尊厳を守るために非公開となっていました)、「ファズスピーチ」で有名なGil Hedley博士と、私たちのご献体「トニー」に会いました。クラス全体の人数は約30人です。私のチームにはストラクチュラルインテグレーター(ロルファーとKMI)、ピラティスインストラクター、マッサージセラピストがいます。

これから私たちは1日8時間、週6日を3週間かけて、「トニー」と一緒に自分が何者であるかを学びます。

今日学んだこと:

  • 肌の色は表皮の厚みほどもありません。
  • ご献体を立たせると、彼らはより幸せそうに見え、より個人的なものに感じられます。
  • ご献体は腰の行くところに行きます。
  • 手と足は顔と同じように個人的なものです。
  • 慣れると、私の脳は手袋を通してのタッチに合わせて再調整され、直接触れた場合と同じように詳細な質感を感じることができます。

ヘドレー先生はご献体を「フォーム」と呼びます。

それぞれのフォームを立った姿勢にささえると、テーブルの上に横たわっているときには見えなかったストーリーが明らかになりました。 身体が空間をどのように占めるかは、その人自身の不可欠な部分です。 立っていると、より生きている状態に近く見えます。 ある女性のフォームは驚くほど背が高く、ダンサーのような足をしていました。 立っていると、彼女はより若く、より活発に見えました。 フォームの個性は、重力との相互作用によって形作られます。 物語は、空間における身体と重力の関係から生まれます。

Integral Anatomy Workshop は、手技療法士/ストラクチュラルインテグレーター/ボディワーカー/哲学者を対象とした、集中的で実践的な人体解剖ワークショップです。 医学部の肉眼解剖学の実習室の授業とはまったく異なります。

解剖は内省の行為です。 献体者からの贈り物の層を解くことで、参加者は自分自身の隠れた層を明らかにします。

Gil Hedley Ph.D
The Gross Anatomy Lab is  super clean.
解剖実習室はこんな感じです

肉眼解剖学研究室はとてもきれいです。カラースキームは次のとおりです。白っぽいリノリウムの床。 白衣。 黒いカウンタートップ。 黒い椅子。 オレンジ色のキャビネット、そして蛍光灯の下で輝くステンレススチールの数々。

私たちは、バックグラウンドで何らかの機械の音が鳴り続けるこの完全に人工的に消毒された空間で約 7 時間を過ごしました。

1日目は観察です。 メスは使いません。 私たちはトニーと長い時間を過ごし、手術痕などの表面の跡をメモしました。 学生のほとんどは何らかの手技療法士です。 私たちの関わり方は医学生とは明らかに異なります。 私たちは触れて共感を感じます。

Today I met the legendary Dr. Hedley, the Fuzz Speech Guy, and our cadaver “Tony” at an undisclosed location (out of respect to the donors).  Entire class consists of about 30 people.  My team includes two structural integrators (a Rolfer and a KMIer), a Pilates teacher, and a massage therapist.

I will spend 8 hours/day, 6 days a week, for three weeks to learn who I am with Tony.

What I leaned today:

  1. Skin color is not even epidermis deep.
  2. When you stand cadavers up, they look happier and you feel them more personal.
  3. Cadavers go where their hips go.
  4. An Invisible and inaudible bell works as well as a visible one
  5. Hands and feet are as personal as faces.
  6. Once I get used to, my brain re-calibrates for through-the-exam-gloves touch and I can feel detailed texture just like with direct contact.

Gil calls a cadaver human “form.”

Holding each form in the standing position revealed the story we didn’t see when they were lying on the table.  How the body occupies the space is an integral part of who they are.  Standing makes them look closer to the life.  One female form was surprisingly tall with dancer’s legs.  Standing, she looked younger and livelier.  Personality of the form takes shape through interaction with the gravity.  Narrative emerges from the relationship of the body with gravity in space.

Integral Anatomy Workshop is an intensive hands-on human dissection workshop for manual therapists/structural integrators/body workers/philosophers.  It’s quite different from medical school gross anatomy lab classes.

Dissection is an act of introspection. By unwrapping the layers of the donor’s gift, participants uncover hidden layers of themselves.  Gil Hedley, Ph.D.

The Gross Anatomy Lab is  super clean.
 The Gross Anatomy Lab is super clean.

The lab is super clean.  The color scheme is:  whitish linoleum floor; white lab coats; black counter tops; black chairs; orange cabinets, and lots of stainless steel glare under fluorescent light.

We spent about 7 hours in this totally artificial sanitized space with continuous humming of some kind of machines in the background.

Day 1 is for observation.  No scalpel.  We spent long time with Tony, taking notes of surface marks, such as surgical scars.  Most of the students are one kind of manual therapists or another.  Our way to relate is distincti

2018年ファシア学会会議(ベルリン)でのプレゼンテーション

2018年にベルリンで開催された第5回国際ファシア学会会議(Fifth International Fascia Research Congress)で発表されたプレゼンテーションビデオです。ギル・ヘドレー博士が、「ファズ」(Fuzz)と呼んでいたファシアとは何かについて説き明かします。まず、皮下脂肪層、そして疎性結合組織を示し、いずれも、2015年ファシア学会会議で提案された定義に適合するファシアとして実証することができることを示します。一般に疎性結合組織と考えられている組織の名前として、表層ファシア(Superficial fascia)とペリファシア(perifascia)を提案します。

Fascia is all around us! (for 2018 Fascia Congress, Berlin): Learn Integral Anatomy with Gil Hedley

ビデオの埋め込みが禁止されていますので、リンクから直接Youtubeにアクセスし、CCで日本語を選んで閲覧ください。

Fasciaという英語は日本語では筋膜と訳されているようですが、Hedley先生の統合解剖学の観点からここでは「ファシア」とカタカナ表記することにします。

このプレゼンテーションビデオでは、真皮の下にあるsuperficial fascia(浅層ファシア)と、Hedley先生が提唱するperifascia(ペリファシア)の性質が明示されています。

Hedley先生はまだファシアが注目されていなかった2005年に、ご献体で観察されたある構造を「Fuzz」と表現したスピーチのビデオを作成し、その後、Youtubeに投稿し、以来「Fuzz speech guy」として当時は数少なかったファシアを意識する研究者やマニュアルセラピストの間で有名になってました。以来、”fuzz”の正体の研究を重ねた結果、現在ではペリファシアと呼び、その特性からこれがファシアの定義に適合するものであるとされています。

Hedley先生はFuzzスピーチの情報をアップデートし、次のように説明しています。

「毛羽立ち(Fuzz)」は、実際には生体内の非常に湿った膜であり、私は現在「ペリファシア」と呼び、解剖学者は一般に疎性結合組織(loose areolar connective tissue)と呼んでいるものです。 私がこれをファシアと呼んで妥当であると考えるのは、それが結合組織の集合体であり、覆い、包み込み、シート状に剖出することができるためです。シート状に切り出すのは容易であり、私も他の多くのビデオでも行っています。 解剖時に引き裂くと「毛羽立った」ように見えるのは、それを構成するコラーゲン線維の組織が直線的ではなく「フェルト状」に組織されているためで、非生理的張力がかかると綿菓子ように毛羽だちます。 これらの組織は、筋骨格系の中で特に差異運動(differential movement)が発生する場所に存在します。 これらは滑りやすく湿っており、膨張性と弾力性があるため、これらの膜を介して関係する他の組織(筋束など)が作用し、相互に簡単に移動できます。 感覚神経終末もこれらの組織で終結しており、これらの滑りやすい経路を通って他の目的地に向かう多くの神経も存在します。 したがって、ペリファシア膜組織が静止状態、脱水状態、虚血状態、および/または炎症を起こしている場合、実際にそこが痛みの原因となる可能性があります。 私は、「What’s the Fuzz?! The role of Fascia in Healthy Movement」という一連のビデオで、研究室の画像や映像を使ってこれらの組織について詳しく議論し、説明しています。このビデオは私のウェブサイトで(https://www.gilhedley.com/products/what-s-the-fuzz-5-hr-ce-credit-course)見つけることができ、視聴できます。 イージーライダー会員(無料)に登録し、楽しんでください!

Gil Hedley, Ph.D.

浅層ファシア:Superficial fascia

Fascia is all round us!のビデオはまず、浅層ファシア(superficial fascia)の性質のデモンストレーションから始まります。浅層ファシアは密性結合組織である真皮(dermis)と筋肉の間にある層であり、皮下脂肪層のことです。人体解剖図やビデオでは皮下脂肪層に焦点が当てられることは希であり、その存在はしばしば悪者や排除すべきものとして扱われており、これまで皮下脂肪層が果たす重要な役割や機能について言及されることはまれでした。

美容整形で脂肪吸引という施術を聞いたことがあると思います。この言葉からは、単に皮膚の下の脂肪の塊を吸い取る、というイメージが想起されます。現実はどうなのでしょうか。

このビデオでは、ご献体から皮下脂肪/浅層ファシア片を剖出し、脂肪分を除去することにより、脂肪細胞を支えているマトリックス(骨組み/基盤)のみを取り出し、荷重をかけてその引っ張り強度をデモンストレーションしています。

医大のご献体処理室におけるワークショップで、実験用の特別な装備がなかったため、かなり原始的な方法でデモンストレーションされていることをご了解下さい。

この試みが行われた時に私は解剖助手として立ち合っていましたが、マニュアルセラピストとして皮下脂肪を見る観点が大きく変わりました。

ペリファシア:Perifascia

Peri=周辺、周囲 Perifasia=ファシアの周辺の組織

(3:31)Hedley先生がペリファシアと命名した組織についてのデモンストレーションが行われます。これは、初期のビデオで先生がFuzzと呼んでいた、筋組織と表層ファシアの間に存在する構造です。この構造は非常に薄く、透明であるため、容易に見逃されてしまいます。ペリファシアは表層ファシアの下だけでなく、筋組織の間にも存在します。

ペリファシアは時間をかければファブリック(膜)として剖出することができますが、組織が乾燥している場合は、引っ張ると裂けて毛羽だって見えます(Fuzz)。光が波動であり同時に粒子であるという概念と似ていますね。

先に表層ファシアの強靱性をデモンストレーションしましたが、このデリケートなペリファシアも特性的な耐久性を持っています。ペリファシアは水分を多く含んでおり、組織間の滑りをよくする働きをしています。

それでは、ペリファシアの層はいくつあるのでしょうか。実際のところ、人体は層にわかれているわけではなく、層(レイヤー)は使用する器具と技術により決まります。深層ファシアとペリファシアは連続しており、これをテクスチャーの違いに基づいて分離することにより、層として見ることができるのです。

Fixed Cadaverについて

2024年5月の解剖実習ワークショップに申し込みました。2023年は防腐処理を施されていないご献体の10日間にわたる解剖実習ワークショップに参加しましたが、2024年は防腐処理を施されたご献体の6日間ワークショップを選択しました。参加を考えている方のために、防腐処理を施したご献体(fixed cadaver)についてお話しします。

Cadaver

日本語で死者の遺骸を表す言葉はいくつもありますが、ご献体は英語ではcadaverと呼ばれます。そのままの訳すと「死体」ですが、Hedley先生の解剖実習では、私達の学びのために献体して下さったdonor(献体者)と呼びますので、敬意と感謝の念を示すために「ご献体」と日本語に訳しています。

Fixedって何?

Fixedというのは、薬品による防腐処理を施されたご献体です。長期にわたる解剖実習を行う医学生が扱うのはhard fixedと呼ばれる強い防腐処理を施したご献体になります。Hedley先生の1週間のワークショップの場合は、soft fixedと呼ばれる比較的緩い薬品処理となります。

これに対して、Unfixedのご献体は低温保存したものであり、当然のことながら長期間の解剖には適さず、解剖実習中の温度管理に細心の注意を必要とします。

遺体の防腐処理はembalming(エンバーミング)と呼ばれ、アメリカでは葬儀屋で一般的に行われるものです。映画やドラマでエンバーミングを行っているシーンを目にしたことがあるかもしれません。原理としては、血液を除去し、防腐のための薬品を注入するものです。頸動脈や頸静脈、大腿動脈・静脈を引き出し、切れ目を入れてそこから薬剤を注入します。薬品の成分の比率等は、遺体整復師(エンバーマー)によって異なります。処置を行ったエンバーマーによって、ご献体の状態はかわります。

Fixed Cadaverの大きな特徴は、鎖骨の上の頸動脈が通る部分と、太ももの内側の大腿動脈が通る部分の切開したところを糸で縫い合わせていることです。初めてFixed Cadaverを見た人は、これを見て「?」という顔をすることがあります。このような、死後についたものは、artifact(死の所産)と呼ばれます。生きている間のその人とは全く関係ないものということです。

ほとんどのご献体で青あざのような鬱血色が観察されますが、死後のアーティファクトであることがほとんどです。

もうひとつ、注意しなければならないのは、防腐処理の薬品を体中に浸潤させるため、かなりな水分を含んでいることです。人工的にむくんだ状態になっています。

匂いは?

薬品の匂いがしますが、慣れたこともあってそれほど気にならなくなりました。初めての実習時にはマスクにエッセンシャルオイルを垂らしたりしていましたが、そのうち大部分の実習生はマスクをはずしてしまいます。呼吸器系の疾患のある方は、ハードコアなマスクをすることもあります。

UnfixedとFixed、どっちがいいの?

私はfixedとunfixedのいずれも何度も扱いました。ここしばらく、Hedley先生の長期プロジェクトのアシスタントをしている時以外は、unfixedの解剖実習を行っていました。

最近「unfixedでなければ解剖ではない」というような主張をしているワークショップが多くなっているとHedley先生は嘆かれています。どちらがいい、ということはありません。目的が何かによってどちらが適切かを選ぶということです。

Fixedは組織が「固定」されているので、一つ一つの構造を防出するのが容易です。特に、神経のようなデリケートな構造を剖出しようとすると、unfixedでは困難となります。脳の構造を観察したい場合も、unfixedでは柔らかすぎてはっきりと見ることはできません。

一方、fixedでは、関節が固定されており、「動き」を見るのには適しません。私は、unfixedの解剖時には、動きを重視して観察するようにしています。

どちらを選んでも、異なる気づきと学びを得ることができます。

2024年のワークショップの日程は以下のリンクから。

https://www.gilhedley.com/lab-course-details-and-schedule

ひとつとして同じもののない雪の結晶と人体

10年の解剖実習経験で「これがここにあるはずはない!」とか「なんでこの筋肉がここについてるんだ!」とか何度叫んだことでしょう。人体解剖図に描かれた構造と異なるアノマリー(Anomaly)/変則がないご献体はありませんでした。

Dr. Hedleyは、人体解剖図に描かれた人体は現実には存在しない、と教えられます。人体解剖図やモデルは、平均的な構造をひとつの形に表したものでしかありません。

人体と雪の結晶に共通しているものは何だと思いますか?

Dr. Hedleyの解剖実習の助手をしているときに友人になったDr. Gramkeはこのように説明しています。

コロラドでは雪が降っています。私は最近、雪の結晶がひとつひとつ異なることについて母と話しました。ほとんどの人はこれを知っています。特定のコンセプトは多かれ少なかれ一貫してくり返されますが、同じものはひとつとしてありません。

1000個の雪の結晶の平均を取ったひとつのイメージを勉強することによって雪の結晶について学ぶことを想像してみてください。これが雪の結晶を学ぶ限界だったとしたら、なんとむなしいことでしょう。

学校で解剖学を学ぶ時、私たちは正確に地図を暗記することを学び、大抵はこの特定の地図がすべての人に当てはまると教えられます。これは、学び始める時には助けになり、実用的です。問題は、雪の結晶と同じように、私たちはみんな異なるのです。臓器の位置にはじまり、骨格の形状の違い、神経血管系のバリエーション、細胞の生理学的そして生体力学的プロセスに至るまで、私たちは一人一人完全にユニークなのです。

本やパワーポイントスライドやプラスチック模型から学ぶのに対して、現実の人体から学ぶことの長所は、現実の生活のなかで発生するバリエーションについて学ぶことができる点です。「こうあるべきだ」という独断的な観点が薄れ、可能性の幅を開かれた心で見ることができるようになります。

Dr. Madhav Gramke

Dr. GramkeはコロラドのInstitute for Anatomical Researchで解剖実習のワークショップを主催されています。関心のある方は、以下のウェブサイトで詳細を確認してください。

https://integratechiro.com/education

With Dr. Gramke at Colorado Institute for Anatomical Research

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その10)

ワークショップ後半は骨格の観察を行います。関節包を温存したまま軟組織を除去したご献体4体の全身の骨格を骨格標本のような形で並べて観察しました。

全身骨格を比較すると、あらためてそれぞれのご献体の個性が見て取れます。特に立位状態で見ると、解剖台の上では小柄に見えた女性のご献体が男性のご献体よりも長身だったことに驚かされました。

高齢のご献体には人工関節がよく見られます。オーガニックな骨格の一部が突然光沢のある金属部品になっているのを初めて見た時にはショックでした。骨折した部分が金属の細長い板で繋がれていたりするのを見ると、体の中にこのような金属が入った状態で機能していた人体と、それを可能にした医師の技術に驚異を覚えます。

女性の骨盤と男性の骨盤の形状の違いはよく知られていると思いますが、女性だけ比べても形状ははっきりと異なります。骨格モデルは平均的と思われる1体の型から製作されており、現実ではないことを思い知らされます。

全身の観察後は、4体からの大腿骨を並べた観察が行われました。大腿骨ひとつをとっても、大きな個体差があります。

最終日には、解剖台の上のご献体を囲み、参加者全員で感謝の念を表明し、ご冥福をお祈りしてワークショップは終了しました。

ご献体「フランク」の解剖台チームメートです。

実際の骨とプラスチックモデルの違いについてのHedley先生のYoutubeミニレクチャーをご覧下さい。まだ日本語字幕はついていませんが、2体のご献体の肩甲骨と上肢の骨とプラスチックモデルの比較映像を見ることができます。Youtube動画の埋め込み禁止となっていますので、直接Youtubeにアクセスして下さい。

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その9)

10日間ワークショップは前半の6日間と後半の4日間に分かれています。このワークショップは後半で骨格全体の観察を行うため、関節はすべて温存します。通常は鎖骨を開き、肋骨を両脇で切断し、胸膜や心膜、肺、心臓をin situで観察してから、剖出しますが、今回は肋骨を完全に保ったまま、心肺構造を下方に引き抜くという手法を採りました。

10日間ワークショップは前半の6日間と後半の4日間に分かれています。このワークショップは後半で骨格全体の観察を行うため、関節はすべて温存します。通常は鎖骨を開き、肋骨を両脇で切断し、胸膜や心膜、肺、心臓をin situで観察してから、剖出しますが、今回は肋骨を完全に保ったまま、心肺構造を下方に引き抜くという手法を採りました。

ご献体「フランク」の肋骨は複数箇所で骨折しており、心停止からの蘇生が試みられたことがうかがえました。ご献体ではめずらしいことではありません。肺気腫が見られた上、胸膜が胸郭の内側に癒着していました。

統合解剖学ワークショップでは肺を取り出す前に、気管から空気を送ることにより、呼吸時の肺の働きを観察することがあります。健康な肺はスムーズに膨張し、収縮しますが、病んだ肺は明らかに異常な動きをします。

日本語字幕はついていませんが、ヘドレー先生のYouTubeビデオで肺の動きを見ることができます。埋め込みは禁止されていますので、Youtubeから直接ご覧下さい。ご献体の映像ですので閲覧注意です。

Exquisite Lungs breathing

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その8)

5日目はいよいよ腹腔を開き腹部の内臓を観察します。Hedley先生がひとつの解剖台でデモンストレーションと説明を行います。腹壁を開くと、そこに大腸・小腸が見えると思われる方も多いと思いますが、まず出会うのは脂肪で綴られたレースのエプロンのような大網(greater omentum)です。

初めて大網を見た時には、正直言ってショックでしたが、その構造や役割を理解するに従って、美しいと思うようになりました。

大網の大きさや場所はご献体により様々で、テキストのイラスト通りのことはまずありません。Hedley先生によれば、疾患のある臓器を被うように移動し、炎症を抑えるなどの保護的役割を果たすそうです。そのお話しを聞き、何度も特定の臓器を集中して被うように移動している大網を観察すると、幼児を守るようにかけられた暖かい毛布のように感じるようになりました。これは、「内臓脂肪」ではなく、内臓にとって重要な役割を果たす器官なのです。

内臓ではしばしば変則(anomaly)や病変が観察されます。Hedley先生が今回デモンストレーションを行ったご献体では、結腸、特に横行結腸が極端に長く、骨盤の下の方まで降りていました。内臓の観察をすると思い知らされるのは、abdominal workと呼ばれる腹部臓器をターゲットとして行われる手技施術の際に、教科書通りの場所に内臓があると思ってはならない、ということです。

小腸は、単に腹腔の中に入っている管ではありません。約6mあると言われる小腸は腸間膜により腹膜後面に固定されています。この「茎」の部分を束ねて持つと、小腸は花束のようになります。空になっている小腸は薄く、小腸上から腰椎を感じることができ、腰椎がかなり前面にある構造だということが体感できます。

変則/病変としてよくあるのが、ヘルニアです。解剖中に胃が所定の位置に発見できず、騒ぎになっていました。胃が横隔膜を越えて完全に胸部に入っていることがあります。

胆嚢が手術で除去されている、女性の場合は子宮や卵巣が除去されていることがしばしばあります。また、子宮筋腫等が「筋腫」という名前から想像するものと全く違い、石灰化したミカン大のかたまりが体内に複数あるのを何度も見て、ショックを受けたこともあります。健康な臓器は美しいものですが、病変のある臓器は生理的に「何かおかしい」と感じます。肝臓で最も顕著に観察できます。脂肪肝や肝硬変、肝臓癌の病変を目の当たりにして、健康管理の重要性を思い知りました。

くり返しますが、健康な臓器は生理的に「美しい」と感じます。

Evisceration(内臓摘出)

内臓をin situ(もともとある場所)で観察した後、横隔膜よりも下の消化器系の内臓をひとつの構造として摘出します。

腹部内臓を摘出すると、腹部大動脈や大静脈、腰椎、骨盤内の筋の観察を行うことができます。内臓に関心のある生徒は、個々の内臓の観察や解剖を行います。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の内臓に関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。

内臓の解剖ビデオはYoutubeから日本語字幕つきで視聴できます。閲覧要注意です。

ヘドレー先生のYoutubeビデオは他サイトへのはめ込み禁止となっておりますので、Youtubeから直接ご覧下さい。年齢制限つきの閲覧注意ビデオです。

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その7)

解剖実習4日目には筋肉構造の剖出が行われます。この時点では、参加者それぞれが最も関心のある部位を集中して解剖していることが多いです。私は最初から、右の股関節(自分が痛めている部位です)と骨盤に関心がある、と宣言して、死守しようとしました。

リピーターはそれぞれに自分の関心のある部位に集中し、疲れると別の部位や、解剖が進んでいない部位に移動します。別の部位を解剖する際は、チームメイトに声をかけ、その部位を保全したい人がいないかどうか確認します。初心者は、全部見たい、と思うらしく、あちこちを少し解剖したら、わからなくなって、別の部位にうつる、というようなことをするのが常です。(目をはなしたすきに、観察のために保全していた股関節の腱を切られてました。)

興味深い発見があった場合に、チームメートや他の解剖台の実習生を呼んで説明したり、疑問があったり、剖出方法が分からない場合は、ヘドレー先生やアシスタントのグラムケ先生を呼んで、説明、またはデモンストレーションしてもらいます。

ヘドレー先生は常にどこかのチームから呼ばれ、興味深い場合はクラス全体を集めてデモを行いながら、ミニレクチャーが始まります。

この段階ではしばしばアノマリー(変則)が発見されます。慎重に解剖すれば、変則が必ず観察されます。今回は、一つのご献体で上腕二頭筋溝(bicipital groove)に2本の腱が通っているのが見つかり、そのチームが湧いていました。棘上筋の腱だったみたいです。私が解剖していた「フランク」は片側だけに小腰筋が見られました。

特定の筋肉構造に集中すると、ご献体を「Whole」(統一された存在)として見る視点が薄くなることに気づきました。多くの解剖実習では、この段階からがメインだと思います。ヘドレー先生以外の解剖ビデオを見ていると、かつては一人の人間であった亡骸を解剖させていただいている、ということが感じられないのは、特定の構造にのみスポットライトをあてているからかと思います。解剖が初めての人にとっては、その方がショックが少ないのかもしれません。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の筋のレイヤーに関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。

筋構造の解剖ビデオはYoutubeから日本語字幕つきで視聴できます。閲覧要注意です。

ヘドレー先生のYoutubeビデオは他サイトへのはめ込み禁止となっておりますので、Youtubeから直接ご覧下さい。年齢制限つきの閲覧注意ビデオです。

(つづく)

統合解剖学ワークショップ(2023)に参加しました(その6)

ワークショップ3日目の朝は、superficial fascia (浅層ファシア)を取り除き、人体解剖図でお馴染みの姿となった4体のご献体を並べて観察することから始まりました。

Deep fascia(深層ファシア)は慎重に残してあります。深層ファシアを取り除いてしまうと、筋肉繊維自体は非常に脆いので、筋肉構造の形状が簡単に失われてしまいます。

浅層ファシア又は皮下脂肪層を取り除くと、ご献体の男女差がわかりにくくなります。高齢女性のご献体が予想外にしっかりとした筋肉を保っていることもあります。

浅層ファシアまたは皮下脂肪層を深層ファシアから剖出する際に、2つの間の関係性を重視するように指導されました。この二つの層が密接な関係の部分と、blunt dissectionと呼ばれる、メスを使わず、指等で剖出できる部分に特に注意を払います。Blunt dissectionが可能な部位は、構造と構造の間に差異運動(differential movement)がある場所であり、メスを使う必要がある部分はアンカーとなっている部分です。このコンセプトは手技施術者にとって目からウロコとなります。この点は3日でも同じです。

3日目には深層ファシアを剖出し、筋構造の骨への付着部(統合解剖学では筋構造全体の関係性を重視するため、起始停止という用語を使いません)を切り離さず、blunt dissectionによって筋肉構造を分離し、特定していきます。

付着部をそのままにする、というのは初心者の頃に思い知った重要な点です。骨から安易に切り離してしまうと、何の筋か、どこからきたのか分からなくなることです。大腿部や前腕部を想像してみてください。遠位の付着部を切り離してしまった場合、近位の付着部についてしっかりと理解していなければ、区別が付かなくなってしまいます。(私は最初そうなりました。)

この過程で、深層ファシアについて深い学びがえられます。深層ファシアは単に名前をつけられた筋構造をラッピングしているだけものではないということを、自分の手の感覚を通して理解することができます。

もうひとつ、重要なのはヘドレー先生がペリファシアと呼んでいる組織です。これは深層ファシアと皮下脂肪層の間、深層ファシアと深層ファシアの間にある組織です。これについては、ヘドレー先生のYoutubeレクチャーがあります。いずれ日本語字幕をつけようと思います。

個人的な学び方のスタイルですが、わたしのように座学で学んだものを3次元の知識に変換する回路を持っていないものにとっては、解剖実習にまさるものはありません。

https://www.gilhedley.com/membership から無料のEasy Rider Membershipに登録すると、Gil Hedley先生の深層ファシアに関するレクチャーを視聴することができます。日本語字幕はついていませんので、英語のみです。